第1章 | 入口
試験の形と、人工知能の定義
試験の形と出題範囲、人工知能の定義、4つのレベル、AI効果、エージェント、人工知能とロボット
この章で学ぶこと
- G検定の試験の形:方式・試験時間・出題数
- 出題範囲を決めている「シラバス」の構成
- 人工知能の定義と、4つのレベル
- AI効果、エージェント、人工知能とロボットの違い
1.1 G検定はどんな試験か
G検定は、日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施する検定で、正式な名称は「JDLA Deep Learning for GENERAL」です。公式の案内では、ディープラーニングの基礎知識をもち、適切な活用方針を決めて事業に活かす能力や知識があるかを確かめる検定とされています。ディープラーニングは、データから学ぶ人工知能の技術の一つで、1.4節で位置づけを説明します。受験資格の制限はありません。
問題はすべて知識問題で、選択肢から答えを選ぶ多肢選択式です。受け方は2通りあり、時間と出題数は次のとおりです(2026年10月時点の公式案内)。
| 方式 | 試験時間 | 出題数 |
|---|---|---|
| オンライン試験(自宅で受験) | 100分 | 145問程度 |
| 会場試験(会場で受験) | 120分 | 145問程度 |
この形は2026年第1回(G2026#1)から適用されたもので、それまでのオンライン試験は120分・160問程度でした。1問にかけられる時間を計算すると、オンライン試験は約41秒、会場試験は約50秒です。
2026年はオンライン試験が年6回、会場試験が年3回開かれています。受験料は一般13,200円、学生5,500円(いずれも税込)です。オンライン試験を個人で受けるときは、先に受験チケットを買い、その有効期限(1年間)のうちに受けたい回を予約します。
1.2 出題範囲:G検定シラバス
出題範囲は、JDLAが公開しているシラバスで決まっています。シラバスは、出題範囲を項目と節に分け、節ごとに「目標」(何ができればよいか)と「キーワード」(出題される用語)を並べた文書です。今の範囲は「シラバス2024」で、2024年11月の試験(G2024#6)から適用されています。公開されている版は第1.4版(2026年5月11日)です。
シラバスは技術分野(8項目・37節)と法律・倫理分野(2項目・18節)の2つからなります。各項目と、この教科書で扱う章の対応は次のとおりです。
| 分野 | 項目 | 節 | この本の章 |
|---|---|---|---|
| 技術 | 人工知能とは | 1〜2 | 1〜2 |
| 人工知能をめぐる動向 | 3〜6 | 3〜4 | |
| 機械学習の概要 | 7〜10 | 7〜10 | |
| ディープラーニングの概要 | 11〜16 | 11〜12 | |
| ディープラーニングの要素技術 | 17〜25 | 13〜15 | |
| ディープラーニングの応用例 | 26〜34 | 16〜20 | |
| AIの社会実装に向けて | 35〜36 | 21 | |
| AIに必要な数理・統計知識 | 37 | 5〜6 | |
| 法律・倫理 | AIに関する法律と契約 | 1〜7 | 22〜24 |
| AI倫理・AIガバナンス | 8〜18 | 25〜27 |
シラバスでは数理・統計が技術分野の最後に置かれていますが、機械学習の章で使う道具なので、この本では機械学習より前の第5〜6章で扱います。
1.3 人工知能とは何か
人工知能(Artificial Intelligence, AI)には、研究者のあいだで一致した定義がありません。おおまかには「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」と説明されます。
「Artificial Intelligence」という言葉は、ジョン・マッカーシー、マービン・ミンスキー、ナサニエル・ロチェスター、クロード・シャノンの4人が1955年8月31日付で書いた提案書で使われました。この提案書は、1956年の夏にダートマス大学で研究会(ダートマス会議)を開くことを呼びかけたものです。
定義がそろわないのは、そもそも「知能」そのものに定まった定義がないからです。たとえば、日本の研究者の定義には次のようなものがあります(総務省『平成28年版 情報通信白書』の一覧より)。
- 松尾豊:「人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術」
- 松原仁:「究極には人間と区別が付かない人工的な知能のこと」
- 浅田稔:「知能の定義が明確でないので、人工知能を明確に定義できない」
同じ白書では、「人間のように考える」とは人間と同じような知的な結果を得ることを指し、その仕組みが人間の脳と同じかどうかは問わない、とも説明されています。
1.4 人工知能の4つのレベル
「AI」と呼ばれるものは、何を人が決め、何をデータから学ぶかによって4つのレベルに分けて整理できます。シラバスでは、この4つを「単純な制御プログラム」「古典的な人工知能」「機械学習」「深層学習(ディープラーニング)」と呼んでいます。まとめると図1-1のようになります。
図1-1の各行を、例で確かめます。
レベル1:単純な制御プログラム
決められた1本のルールどおりに動くだけのものです。エアコンの温度調節がその例で、室温を 、設定温度を20度とすると、次のように動きます。
なら ON、 なら OFF です。見る値(室温 )も、判断のルール(20度より低ければ ON)も、人が決めています。製品の宣伝で「AI搭載」と書かれていても、中身がこのレベルのものがあります。
レベル2:古典的な人工知能
人が書いた知識やルールをたくさん持ち、それらを組み合わせる推論(わかっていることから新しい結論を導くこと)や、答えの候補を順にたどる探索で答えを出すものです。将棋のプログラムや、検査の結果から病気を推定する診断プログラムがその例です。
たとえば「熱がある かつ せきが出る ならば かぜを疑う」のようなルールを人が何百も書いておき、患者のデータに当てはまるルールをつないで結論を出します。ルールを書くのが人である点はレベル1と同じですが、ルールの数とそれを組み合わせる仕組みがあるぶん、扱える問題がはるかに広くなります。
レベル3:機械学習
機械学習は、判断のルールをデータから学ぶ方法です。ただし、データのどこに注目するかは人が決めます。この「注目する点を数で表したもの」を特徴量といいます。
迷惑メールの判定で確かめます。人が特徴量として、メールの中の「無料」という語の数 と、リンクの数 を選んだとします。判定には次の点数 を使い、 なら迷惑メールとします。
は各特徴量をどれだけ重く見るかを表す重み、 は全体を上げ下げする定数です。機械学習では、これらを人が決めずに、「迷惑メールかどうか」の正解がついたメールのデータから決めます。学習の結果が になったとすると、
- 「無料」が2回、リンクが1個のメール: なので迷惑メール
- 「無料」が1回、リンクが1個のメール: なので普通のメール
と判定されます。図1-1のレベル3の行で、特徴量 は灰色(人が決める)、重み は青(データから学ぶ)になっているのはこのためです。
レベル4:ディープラーニング
ディープラーニング(深層学習)は、重みに加えて、特徴量そのものもデータから学ぶ方法です。入力 に変換 を順に重ねて出力を作ります。
この1つ1つの変換を層といい、層をたくさん重ねる(深くする)ので「深層」と呼ばれます。各層の中身もデータから学ぶので、画像を入力すれば、人が「耳の形」「ひげ」のような手がかりを指定しなくても、判断に役立つ特徴を層が自分で作ります。レベル3との違いは、特徴量を人が決めるか、学習で作るかです。
3つの言葉の関係
ディープラーニングは機械学習の一種で、機械学習は人工知能を実現する方法の一つです。つまり、3つの言葉は図1-2のような入れ子の関係にあります。
1.5 AI効果
AI効果とは、人工知能の研究で実現した技術でも、仕組みがわかって当たり前になると「それは知能ではない」と見なされるようになる現象です。変わるのは技術の性能ではなく、人の受け止め方です。
たとえば、プログラミング言語で書いたプログラムをコンピュータが実行できる形に変換する作業(コンパイル)は、昔は人が行っていたため、それを代わりに行う「人工知能」を作ることが試みられていました。しかし機械で自動的にできるようになると当たり前になり、今ではそれを人工知能と呼ぶ人はいません。チェスを指すことや音声を聞き取ることも、かつては知能のしるしと考えられていましたが、機械にできるようになると「ただの計算」と見なされるようになりました。
このため、「AI」と呼ばれる範囲は時代とともに動きます。1.3節で見た「定義が一致しない」ことの一因でもあります。
1.6 エージェントと、人工知能とロボットの違い
エージェントとは、センサーで環境を観測し、アクチュエーター(モーターなどの動かす部分)で環境に働きかけるものです。代表的な教科書であるラッセルとノーヴィグの『Artificial Intelligence: A Modern Approach』は、人工知能を「エージェントについての研究」としてまとめています。
時刻 の観測を 、行動を とし、観測から行動を決める規則を と書くと、エージェントは次の式で表せます。
行動 によって環境が変わり、それを次の時刻にまた観測します。この繰り返しを図1-3に示します。
1.4節のエアコンなら、 は室温、 は暖房の ON/OFF、 は「20度より低ければ ON」というルールです。図1-3の形はレベル1からレベル4まで同じで、違うのは を人が書くか、データから学ぶかです。
次に、人工知能とロボットは別のものです。ロボットは、腕や足などの体(ハードウェア)を持って動く機械です。人工知能は「考える」部分を扱う技術で、ロボットのハードウェアそのものは機械工学の技術、それをどう動かすかを決めるソフトウェアが人工知能の技術、と分けて考えます。
そのため、体を持たない人工知能もあります。将棋のプログラムや、スマートフォンの音声アシスタントには体がありません。逆に、工場で決められた動きをくり返すだけのロボットアームのように、人工知能を使っていないロボットもあります。図1-3でいえば、ロボットはセンサーとアクチュエーターを持つエージェントの一つで、その に人工知能を使うことがある、という関係です。
- G検定
- JDLAが実施する、ディープラーニングを事業に活かす知識を確かめる検定。知識問題の多肢選択式。
- シラバス
- 出題範囲を項目・節ごとに「目標」と「キーワード」で示した文書。今はシラバス2024(技術分野8項目37節、法律・倫理分野2項目18節)。
- 人工知能(AI)
- 研究者のあいだで一致した定義はない。おおまかには「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」。
- ダートマス会議
- 1956年夏にダートマス大学で開かれた研究会。1955年の開催提案書で「Artificial Intelligence」という言葉が使われた。
- 特徴量
- データのどこに注目するかを数で表したもの。機械学習では人が決め、ディープラーニングでは学習で作る。
- 機械学習
- 判断のルール(重み)をデータから学ぶ方法。
- ディープラーニング
- 層を深く重ね、特徴量も重みもデータから学ぶ方法。機械学習の一種。
- AI効果
- 実現して仕組みがわかった技術が「知能ではない」と見なされるようになる現象。
- エージェント
- センサーで環境を観測し、アクチュエーターで環境に働きかけるもの。。
- オンライン試験は100分・145問程度、会場試験は120分・145問程度。どちらも多肢選択式で、受験資格の制限はない。
- 人工知能には統一された定義がない。理由は「知能」自体の定義がないこと。
- 「Artificial Intelligence」という言葉はダートマス会議(1956年)を呼びかけた提案書で、マッカーシーらが使った。
- 4つのレベル:単純な制御プログラム → 古典的な人工知能 → 機械学習 → ディープラーニング。機械学習とディープラーニングの違いは、特徴量を人が設計するか、学習で獲得するか。
- 人工知能 ⊃ 機械学習 ⊃ ディープラーニング。
- AI効果は、技術の性能ではなく人の受け止め方が変わる現象。
- ロボットは体(ハードウェア)、人工知能は考える部分。体のない人工知能も、人工知能を使わないロボットもある。
この章の出典
- JDLA G検定とは(試験概要・受験費用)
- JDLA G検定 2026年の年間開催スケジュール(試験時間・出題数の変更)
- JDLA G検定の試験出題範囲(シラバス)G2024#6~(第1.4版)
- 総務省 平成28年版 情報通信白書「人工知能(AI)とは」
- McCarthy, Minsky, Rochester, Shannon: A Proposal for the Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence, August 31, 1955(AI Magazine 27(4), 2006)
- 松尾豊 講演資料「4つのAI」(JEITA STRJ 2014 特別講演, PDF)
- 櫻井翔・佐藤敏紀・市瀬龍太郎「教養知識としてのAI〔第1回〕AIって何?」人工知能 34巻3号(2019)
- Russell & Norvig: Artificial Intelligence: A Modern Approach(第2章 Intelligent Agents)